原発事故後、恐怖の中で「電気復旧工事」を続けた電気工事士のプライド

被災地で電気復旧工事に尽力した電気工事士

東日本大震災が起きた2011年3月11日、電気工事士の吉田智徳さんは、福島県いわき市内のマンション建設現場に勤務していた。

まだ現場は基礎工事の段階だったため大きな被害はなかったが、その後、原発事故に伴う放射能汚染の恐怖のなかで、被災地の電気復旧工事に追われることになる。

「また地震がいつ起こるのか、原発はどうなるのか不安だらけ。でも、被災して困っている人たちを自分が助けられるなら、と修繕工事を続けた」と吉田さんは当時を振り返る。

自分自身も被災地の住民として悩みながら、いわき市から避難せずに電気復旧工事を続けた理由とは何だったのか?

震災後に独立して桜電設株式会社を立ち上げた吉田さんに、震災当時の心境や電気工事への想い、電気工事士になった経緯などを聞いた。

水産高校に在学中、電気工事士の資格を取得した“変わり種”

吉田智徳(よしだ・とものり) / 桜電設株式会社 / 電気工事(材工) | 電気通信工事(材工) | 消防施設工事(材工) | 空気調和設備工事(材工)
吉田智徳(よしだ・とものり) / 桜電設株式会社 / 電気工事(材工) | 電気通信工事(材工) | 消防施設工事(材工) | 空気調和設備工事(材工)

吉田智徳さんは水産高校に在学中、電気工事士の資格を取得した。

工業高校であれば普通のことだが、水産高校では変わり種だ。放課後に理科の先生に教えてもらいながら、自主的に電気工事の勉強にいそしんだ。

「もともと勉強は好きじゃなかったのに、理科の電気の授業だけは他の科目と違って、不思議と耳に入ってきたんです。そこから電気の魅力にハマっていきました」

そんな吉田さんに対して、ある日、電気工事士という資格があるので取ってみないかと先生が声をかける。電気工事士の資格を持っていれば食べていくのに困らないとも教わった。

「電気を勉強する楽しさが半分、手に職をつけるために勉強したのが半分。気が付いたら第二種電気工事士も、第一種電気工事士も合格していた感覚です」。

難なく電気工事士の資格を取得した吉田さんは、高校卒業後、地元・福島県内の社員50〜60名ほどの老舗電気工事会社に就職する。

別の電気工事会社に就職するか、他業種に転職するか迷った

入社して間もない見習いの頃は、理不尽なことで怒ってくる先輩に苦しんだこともあった。しかし、そうではない人格者も社内にはたくさんいた。

「老舗として名の通った電気工事会社だったので、いろいろな人を見ることができて良かったです。電気工事の技術だけでなく、お客様対応の仕方など、いろいろ学ばせてもらいました(笑)」。

その電気工事会社に約8年勤務し、ノウハウを蓄えたあと、吉田さんは桜電設株式会社を立ち上げることになる。

しかし、はじめから独立を目的として、退職したわけではなかった。

「実は、別の電気工事会社に就職するか、まったく異なる道に転職しようか悩んでいました」。

その間、5社ぐらいの電気工事会社から「高待遇で迎える」という甘い誘いも受けたが、どの会社の話も詳しく聞くと、吉田さんが理想としていた給与額を実現するのは難しいことが明らかになってきた。

他業種に転職するかも含めて悩んだ末、「じゃ、自分で理想の会社を作っちゃえ!」と思って勢いで独立した。「ダメならその時はその時で、ぐらいにしか考えていなかったです」。

原発事故後の過酷な電気復旧工事

電気工事士になった経緯を語る桜電設株式会社代表・吉田智徳さん

東日本大震災が発生したのは、まだ吉田さんが老舗電気工事会社に所属していたときだった。

いわき市内の高齢者用マンションの建設現場でちょうど仮設の電気の準備をしていた際に、地震が起きた。まだ基礎工事で建物を建てる前だったので、被害は最小限で済んだ。

帰宅できたのは翌日。幸いなことに家族は全員無事だった。その後、仕事は福島第一原子力発電所の爆発事故もあって、1週間ぐらい休みになった。

仕事に復帰してからは、過酷な日々が待ち受けていた。「電線が切れたり、家の電気が点かなくなったり、被害に遭った場所の修繕工事を担当していきました」。役所の電気工事にも順次対応していった。

「被災した当初は、電話も繋がらない状態。仕事を頼みに私の職場まで歩いてやってくるお客様もいました。以前に自分が担当した工事現場を回って、修繕する仕事も多かったです」。

しかし、車で工事現場まで移動するのも難しい状況だった。「道路が使えなかったり、渋滞していたり。普段なら1時間以内で辿り着けるところが、9時間ぐらいかかる」こともあった。

断水していたので、仕事で汗をかいてもお風呂に入ることはできなかった。劣悪な状況下で復旧作業を重ねる日々が続いた。

原発事故の恐怖と、電気工事士のやりがい

いわき市は地震の被害も大きかったが、それ以上に吉田さんが恐怖を覚えたのは、福島第一原子力発電所の爆発事故による放射性物質の影響だった。

いわき市の大部分は避難指示が出ていた原子力発電所の50km圏内から外れていたが、「それでも仕事を続けていけるのか、原発はどうなるのか」という強い不安感を抱きつつ、復旧工事に当たっていた。

避難区域内で営業していた同業者は、避難しなければならず、資材や社用車も含め、道具を持ち出すこともできなかった。当然、仕事を求めて福島県外に出て行く人も増えた。

そうした恐怖の中、「ただ、目の前に困っている人がいるから」「自分で助けられるなら」という想いだけで電気の修繕工事に当たった。

正直、電気工事は日常業務もキツい仕事です。たとえば、エアコンが付いていないところにエアコンを取り付けたりするわけですから作業中は相当暑いです。でも、それを乗り越えたところに、電気工事士としての達成感とやりがいがあります。

電気工事の作業が終わってから、スイッチを入れたときに電気が点く瞬間は代えがたい喜びです。

私たちが仕事をすれば、それまで困っていたお客様の悩みが解消され、笑顔になって喜んでくれます。“わぁ!”とたった一言、感動の声を聞くだけで嬉しくなります」。

電気を何気なく使える日常生活には、電気工事士の活躍が欠かせない。被災地で奮闘した吉田さんには、困っている人を助けたいという電気工事士としての誇りがあった。

「諦めたらそこで試合終了ですよ」27歳で桜電設株式会社を起業

電気工事の仕事の魅力を語る桜電設株式会社代表・吉田智徳さん

震災から4年後の2015年、吉田さんは27歳で桜電設株式会社を立ち上げた。

コーポレートサイトには、肝に銘じる言葉として「諦めたらそこで試合終了ですよ」を掲げている。

「今は福島県いわき市を中心に、北は南相馬市から南は茨城県土浦市のエリアで、電気工事、電気通信工事、消防施設工事、空気調和設備工事を手掛けています。

ビルや病院などが電力を受電するために必要な自家用工作物の設置、建物に電気を引き入れてコンセントや照明のスイッチを利用できるようにする工事が多いです」。

桜電設の施工の強みは、利用者の使いやすさを意識した工事にある。

「たとえば、店舗の照明スイッチは、お客様が間違って押さないようにバックヤード側に付けるとか、閉店後に店員が退社する際は出入口までの経路が真っ暗にならないよう、スイッチを消してから時間差で消灯するとか、お客様からの用途や悩みを聞いて、それを解決する工事を提案をするのがとても楽しいです」。

近年はBtoBの事業だけでなく、一般住宅のエコキュート対応工事やエアコン工事など、BtoCの工事にも力を入れ始めている。

また、コンテナを住空間として販売する新規事業にも着手。船やトラックなどで荷物を運ぶときに使う巨大なコンテナに、内装工事・電気設備工事を施して住めるように計画している。

「まだ実際に住めるのか体感しないとわからない部分も多いので、今、自分でコンテナ2つを繋いで実際に住んでいるところです。

法的な申請はすべてクリアできました。夏や冬の気候変動の大きな影響も受けず、防音性も高い。今のところ、家族で生活していても不自由はありません。むしろアパートに住んでいた時よりも快適な生活が送れています」。

感電や転落の危険性も。電気工事の成功体験を得るまで

電気工事士の人手不足が叫ばれる中、やはり桜電設でもどうやって自社の職人を増やして育成するかが課題になっている。

自社サイトや求人サイトを活用し、3人ほど採用したが、結局、定着せず長続きしなかった失敗もある。

「電気工事は照明を取り付けたり、取り替えたり、室内での作業だけのイメージを持って入ってくる人が多いんです。

でも、実際のところ、外でスコップを持って穴を掘ることもありますし、土木的な作業も少なくありません。そこにギャップを感じてしまうようです。新人電気工事士が定着せず、人手不足が起きている原因にもなっています。

お客様に喜んでもらう成功体験を味わう前に辞めてしまう人が多いのですが、感電や転落などの危険も含む仕事なので、早々に電気工事の現場を託すことができない。そこに雇う側としてのジレンマを感じています」。

今、桜電設は抱えている案件が多く、仕事を断ることも少なくない。いかに職人を採用・育成していくかが、今後の企業成長のカギとなる。

[企業情報]

社名/桜電設株式会社

https://sustina.me/company/655298

本社所在地/福島県いわき市常磐湯本町吹谷101

対応可能職種/電気工事(材工) | 電気通信工事(材工) | 消防施設工事(材工) | 空気調和設備工事(材工)

対応可能エリア/宮城県 | 福島県 | 茨城県 | 栃木県 | 埼玉県 | 千葉県 | 東京都 | 神奈川県


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