失態を糧に採用に力を入れはじめた建設中小企業
仕事を受けたくても、職人不足で工事を断らざるを得ないという状況は、建設業界の各所で起こっている。
「結局どの会社も受けられずに断っていると思うので、堂々巡りになってますよね」と、建設業界の人手不足を嘆くのは、東京を中心にオフィスビルのリニューアル工事や、新築物件の養生クリーニング工事を手がける工事会社Aの常務取締役。
工事会社Aは、バブル崩壊後に一度倒産した。そこから時間をかけて再生し、いち中小企業ながら年間30億円を売上げ、従業員は70名抱えるようになっている。
そんな会社をバックオフィスから支えてきた前出の常務取締役に、採用や労働環境整備に力を入れるようになった背景から、人材採用への想いを聞いた。
倒産を経て、職人を大切にする会社に変貌

「社員や職人にとって良い会社でありたい」。
工事会社Aの想いの背景には、前身の会社が一度倒産したという事実があった。バブル崩壊後の激動の社会の中で、赤字体質を変えられなかったことが原因だったという。
当時の社長をはじめ、誰も倒産を止められなかったことで、従業員をはじめ、協力業者などに辛く悲しい時間を過ごさせてしまったあの日々を繰り返してはいけないという決意が感じられる。
「職人が稼げない仕事に価値はない」というのがA社のスタンスには、従業員を大切にする姿勢がはっきりと現れている。いわゆる下請けと呼ばれる協力業者とも、上下関係ではなく、並列で仕事しているという。
給与、待遇面を高めて建設業界の底上げに寄与
建設業界でも若い働き手が入ってくるよう、徐々に働き方改革が進められてきているが、近年は外国人を入れて人手不足を凌いでいるところが目立つ。
しかし、「永続的に確保できるのかわからない外国人労働力を当てにするだけでは、人手不足の根本解決にならない」と、工事会社Aでは採用や待遇面に力を入れるようになった。
日本の働き盛りの若手に興味を持ってもらえるような建設業界であるためには、そんな会社が1つでも多くないといけないとA社の常務は力説する。
「弊社のスタンスは従業員をはじめ、協力業者さんなど、仕事に関わる人たちの幸せを追求すること。完全週休二日は目指してます。現場はまだ『完全』とまではいかないですが、大差ないぐらいは休んでもらっています。
ウチは基本的に単価も高い方だと思います。それで回せているからこそ、他の業者さんも高くせざるを得ないところもあると思うので、業界的にも良いなのかなと。職人にきちんと高いお金を払えるような案件をとってこいと営業には言っていますね」。
職人の待遇を良くできている裏側には、ゼネコンや上流にいる元請けの理不尽な要求には応じないという断固たる決意が潜む。
採用の強みは「成長できて稼げる会社」

建設業界全体で若者や未経験社からの人気が低いため、求職者に出会うまでが大変だが、工事会社Aは採用に自信を覗かせる。
「学歴が低くても、技術を身につければ成長できて、しっかり稼げる会社を目指しています。職人はウチに来て給料が高くなった人が多いようです。
新卒も一度会って話せればなんとかなることが多い。会うとこまでいくことが難しいんですけど、会えれば、ある程度ご縁をもらえています。
でも中小企業ですから、人材確保はやはり大変です。それでも新入社員は入れていますから、向こう40年間は安定して経営していけたらなと思っています」。
こんな会社が1社でも多く増えるなら、職人も業界全体も笑顔になれるのだが果たして。