塗装屋の差別化はブランディングに求められる時代
塗装には職人の経験と実績に裏打ちされたテクニックや塗膜による建物にもたらす効用などが詰め込まれているが、施主がすぐにそれを実感しにくいという現実がある。
だからこそ塗装業は差別化が難しい。
塗装職人歴20年の山口一重さん(山口塗装)は、塗装業もこれからはブランディングの時代だと捉え「“私が塗ることの価値”を売っていきたい」と語る。
山口さんは自身の塗装という行為の価値をどのように位置付け、施工しているのだろうか? その真意を聞いてきた。
塗装職人の感覚でしか覚えられない技術

–山口塗装のお仕事について教えてください。
山口一重(以下、山口) 今は私一人でやっていて、一般住宅の改修のための外壁塗装をメインに扱っています。塗装に関する施工は一通りすべて対応可能です。簡易なものならエイジング塗装もできます。
仲間の塗装工事業の親方さんとの繋がりが強いので、そういった人達から仕事を受けることが多いです。
–塗装業を始めたのはいつごろ?
山口 私は16歳の頃に塗装工事の会社に就職しまして、そこからは紆余曲折ありつつも、塗装業社に2社ほど勤務してから、2004年に独立しました。途中で少し間が空いた時期もありますが、塗装業に就いてからもう20年になります。
–見習いのころはどういう作業を担当していた?
山口 材料運びや下地調整ですね。養生、ケレン(※)が主な業務でした。高圧洗浄機で汚れを落としたり、壁面をサンドペーパーなどで凸凹をなくしたりする業務です。サンドペーパーを当てるのは、塗装箇所に細かい傷を付けることで塗料がそこに染み込みやすくなるという目的もあります。そうすると、塗膜が剥がれにくくなるんですよ。
稀に塗らせてもらうこともありましたが、基本的には下地調整でした。仕上がりやその後の耐久性に関わる大事なプロセスですし、責任ある仕事です。
ただ、それらの作業は見た目にはわかりづらい地味なものなので、当時は嫌になることもありました。そこで私は忍耐力が養われたと思っています。
※…塗装をする前に錆びを落したり、塗料の密着度合いを良くするため傷を付けること
–塗装職人として一人前になるまでにどれぐらいの期間を要した?
山口 10年ぐらいですね。
例えば、塗装はシンナーや水などで希釈(※3)して、塗料を綺麗に塗れる状態にする工程があるのですが、適切に薄められていないと塗った感じがゴテゴテになったり、反対に薄すぎると耐久年数が短くなったりするんです。
希釈の加減次第で私の仕事の価値はグンと変わるのですが、その「丁度良さ」って職人の勘によるところが多いんですよね。使う塗料によっても配合が違ってくるという難しさもあります。こればかりは職人として一定の経験を積む必要があります。
塗装職人の付加価値を生む「想いやり」
–山口さんが塗装業で大切にしていることは?
山口 正直に言って、塗装の技術や精度が高いというのは当たり前、大前提のことだと思っています。塗装職人に求められる技術、価格、時間はそんなに大きな差がないので、付加価値を生み出すのは施主さんに対する「想いやり」です。
それはヒアリングでしっかり要望を聞くことや、予算の範囲内で希望に沿う最適な塗料を選んであげることでもあります。それがあってこそ技術や経験も生きるんです。
私は「私が塗装することの価値」を売っていきたい。今の時代、塗装屋は自己ブランディングが大切だと思っています。
–「想いやり」による違いを詳しく教えてください
山口 塗装に見た目を綺麗にすることだけ求めるのなら、施工にさほど価値を見出さない人がいるのも理解できます。そこに想いやりは必要ないし、それならば安くていい。
でも塗装する意味ってただ綺麗にするだけじゃないんです。塗膜は厚さにしたらほんの数ミリに過ぎませんが、あれで家を守っています。コンクリートやサイディングボードの劣化を防いだり、風雨などの侵入を防ぐことで、家自体の寿命を延ばしているんです。
私はお客さんにヒアリングして依頼の目的を知ることで、その家に合った最適な塗装を施すことができます。
安さだけを求めてくる施主さんは「想いやり」の部分を必要としていないということなので、そういう依頼は断らせてもらっています。
結果的に、家を大事にしていたり、そこに何らかの想いがある方からの案件しか受けていないです。
塗装業を核に新しいビジネスに挑戦

–山口さんの塗装キャリアにブランクがある理由は?
山口 妻が台湾出身ということもあったので、2011年頃に塗装業を一度お休みし、台湾に移住して新たな事業に挑戦したんです。でも、丁度その時期に「東日本大震災」が発生したので、そこから色んな想定外のことが起こってしまって、軌道に乗せられませんでした。
ただ、幸いにも向こうで知り合った台湾人の起業家の方と仕事を一緒に始めることになり、その日本展開と塗装業の再開のため2014年に日本に戻ってきました。
–山口さんのこれからの目標は?
山口 台湾でビジネスをやったことでいろんなことを学べました。
何事に対しても好奇心を持ち続けることがモットーですから、機会があれば塗装業に限らず、いろんなビジネスにチャレンジしていきたいと思っています。
私には塗装という核となるものがあるので、実行に移れる気持ちの余裕もあります。そのためにも自分の技術を引き継いでもらう若手の人材を雇って、修行させていければ理想的です。
–人を雇っていく上での方針などあれば
山口 「これだけの時間働いてくれたから、その対価を支払う」だけの関係では、働く社員にとって仕事が楽しくないものになってしまいます。
働く人が「そこで働きたい」と思うようなアットホームな会社にしたいです。仕事だけ学べるところではなくて、人生、生き方を勉強できるところでありたい。その人が働くことの価値を、仕事に見出せるような会社にできると良いですね。
[企業情報]
社名/山口塗装
https://sustina.me/company/1843
本社所在地/神奈川県横浜市中区本牧原21
自社請け可能工種/塗装工事(材工)
対応可能エリア/東京都 | 神奈川県