東京消防庁の救急指導課が教える本当の応急処置
安全第一を意識していても、ケガをする可能性がゼロではないのが建設現場の仕事。建設業従事者なら、作業中に起き得るもしもの被害を最小限に食い止められる応急処置は知っておくべき。
今、あなたの知っている対処法は本当に大丈夫だろうか?
そこで、建設業に多いケガのケースとその応急処置を伝えるため、緊急時の対処法のプロである東京消防庁の救急指導課・佐竹史成さんに適切な応急処置を聞いてきた。
出血した場合の応急処置

–建設業で手や腕を切ってしまい血が止まらなくなってしまったときは、どうしたらいい?
佐竹史成(以下、佐竹) 出血の種類によって緊急度や、処置の仕方がまったく異なりますので、種類別に説明していきます。
動脈損傷の出血の場合
佐竹 まずは動脈を損傷した場合の出血ですね。こちらは血液の圧力が高く、噴き出すような出血が特徴で、放っておくと確実に死に至る可能性が高い重大な損傷です。緊急度が高く、適切な処置ができるかどうかが生死を分けると言っても過言ではありません。

動脈損傷による出血の場合は、まずビニール袋を手にはめ、それから清潔なガーゼや布で出血のある部分を心臓よりも高い位置で強く押さえることです。救急隊が駆けつけるまでは、仮に出血が止まっても押さえ続けることも大切なポイントです。

――なぜ、ビニール袋をはめるのか?
佐竹 押さえる人が本人でない場合、血液を介した感染症の恐れがあるため、汚れていなければ、コンビニの袋でも構わないので、傷口に直接触れないことが大事です。
それ以外の出血

――作業中に起こる他の出血に関してはどうでしょう?
佐竹 他の出血は大きく分けて、「静脈性の出血」と「毛細血管の出血」があるのですが、動脈性の出血と比べれば、それほど緊急度は高くありません。
“ダラダラと血が出る”のが特徴の「静脈性の出血」は、動脈性の出血と同様に出血箇所にガーゼを当て、上から圧迫し、救急隊の到着を待ってください。
毛細血管の出血は、紙で手を切ったときのようにうっすらと出血するので、ケガをした部位をよく洗い、絆創膏を当てておけば問題ありません。出血の部位と度合いによって、適切な処置をしてください。
熱中症で倒れた場合の応急処置

――建設業で作業員が熱中症で人が倒れたときに最初にすべき対処は?
佐竹 最初にすべきは、「熱の放出」ですね。まずは、服を脱がせて熱を逃がし、ベルトを緩めるなどして緊張を解きます。その後、日光が当たらないクーラーがよく効いた部屋に移動させます。

――クーラーの効いた部屋がそばにないときは?
佐竹 クーラーが効いていれば、車の中でも問題はありません。シートを倒すなどして、とにかく涼しい空間で楽な姿勢をとらせることが大事ですね。ちなみに、体勢は横向きが望ましいです。
――なぜ横向きが望ましい?
佐竹 仮に熱中症による嘔吐などがあった場合に、真上を向いていると嘔吐物が詰まってしまうこともあります。ですので、嘔吐物が詰まらないように横向きが望ましいです。

――特に冷やしたほうが良い箇所などはありますか?
佐竹 動脈が通っている「首」や「脇の下」、鼠径部(そけいぶ)と呼ばれるお腹側の足の付け根を冷やすと効果的です。ビニール袋に氷を入れて冷やすのが理想ですが、用意がない場合は近くの自動販売機で買ったばかりの冷たい缶やペットボトルで冷やしても良いでしょう。乱暴な方法なので最終手段ではありますが、水を身体に直接かけるのも良いですね。
――水分補給も必要ですよね?
佐竹 本人が飲めるようなら、積極的に水分補給をし、まずは様子を見ても良いでしょう。このときに飲むのは、甘いジュースではなく、水かスポーツドリンクが望ましいです。
ただし、意識がはっきりしなかったり、水分補給ができなかったりするようなら、これ以上症状は良くなりませんので、すぐに救急車を呼んでください。
熱中症を引き起こす原因としては「寝不足」や「食事を摂っていないこと」も大いに関係してくるので、できるだけ規則正しい生活を心がけて、発生を防止してほしいと思います。
落下事故の場合の応急処置

――建設業者が作業中に高所から落下してしまった場合の処置は?
佐竹 この場合は「動かさない」というのが原則です。打ちどころによっては首の骨(頸椎)が損傷している可能性もあるので、下手に動かすことで症状を余計に悪化させてしまうことも考えられます。
モノが落ちてこないようにしたり、機械のスイッチが入っている場合は止めたりという安全への配慮は必要ですが、ケガ人は安静に、動かさないのが無難ですね。

――ほかに気を付けたほうが良いことは?
佐竹 意識があるかの確認をする際に“呼びかけ”をするかと思うのですが、そのときも相手の正面に立ってから呼びかけをするようにしてください。背後から呼びかけてしまうと、振り返った瞬間に頸椎を傷めかねません。
――ヘルメットを着けている場合もそのままが良い?
佐竹 そうですね。首が閉まって窒息する恐れがある、などのやむを得ない事情以外は外さないほうがいいと思います。転倒事故の際は、救急隊が到着するまでは“とにかく動かさない”が鉄則です。
骨折した場合の応急処置

――骨折も建設業ではよくある事故。この場合にすべき応急処置は?
佐竹 骨折したときに動かすと本人が痛がると思うので、少しでも楽でいるために「固定」することが大事です。建設現場にもありそうな身近なものを使って「即席ギブス」を作ることもできます。
――建設現場にもありそうな身近なものとは?
佐竹 たとえば、雑誌です。まずは骨折箇所を包み込むように雑誌を挟みます。このときに隙間ができてしまった場合は、タオルで埋めるようにします。


次にひもや手ぬぐいなどで、可能であれば「本結び」で、しっかりと固定します。このとき、結び目が骨折の部位にあたらないようにします。
この「本結び」はしっかりと結べるにも関わらず、「堅結び」よりも解けやすく、固定が必要な応急処置には共通して使える方法です。覚えておいて損はないでしょう。

■本結びの作り方
- 一般的なやり方で一巡させる
- 向かって“左側の紐を”右側の紐の“下に”通す
- 向かって“右側の紐を”左側の紐の“さらに下に”通す
- 両側に引く
指を切断した場合の応急処置

――建設業者の指が完全に切断されてしまったときの応急処置は?
佐竹 元の指の止血と離れた指の両方をケアしておく必要があります。元の指の止血は冒頭の出血の応急処置同様、清潔な布を押し当ててください。このとき、切断面が雑菌で汚れないようにガーゼなどで包むのがポイントです。

佐竹 切断で離れてしまった方の指は2重にビニール袋に入れ、外側のビニール袋に氷水を入れて冷やしておけば、損傷をおさえられます。
このときに離れた指を放置したり、水で洗ったり、直接浸けてしたりしてしまう方も多いのですが、指の組織が損傷する原因になるので絶対に避けてください。
ドリルで足を巻き込んだ場合の応急処置
――ドリルにズボンが引っかかり、足が巻き込まれてしまったときは?
佐竹 ドリルに巻き込まれた場合は、えぐれたような傷になるかと思うのですが、刃が食い込んだままか外れているかで対処法が異なります。刃が外れている場合は、止血して救急隊の到着を待ってください。
また、刃が刺さってしまっている場合は、無理に抜かず、119番にかけた際にその旨を伝えて止血してください。それ以外にできることは特にありませんが、「立つ」よりも「座る」、座るよりも「寝る」姿勢をとったほうが良いですね。
釘が刺さった場合の応急処置
――作業中に釘が刺さってしまった場合は、自身で抜いたほうが良い?
佐竹 抜きたくなる気持ちはわかりますが、基本的にはそのままで置いておいてください。無理に抜こうとした場合に傷を広げる可能性があるのと、止血代わりになっている釘を抜くことによってさらに出血させてしまう危険があるためです。
ひどい場合にはパイプが身体を貫通してしまい、身動きがとれないというケースもあるかと思います。その場合にも電話できちんと状況を教えてもらえれば大丈夫です。救急隊とは別に、パイプを切断することが可能な救助隊も出動して対応します。
塗装作業中、溶剤が目に入った場合の応急処置
――塗装作業中に溶剤が目に入った場合にも、救急車を呼んだほうが良い?
佐竹 自分で病院に行けるようなら救急車を呼ぶ必要はありません。ただし、流水でよく洗い流したうえで必ず病院にかかってください。絶対にこすったり触ったりしてはいけません。
感覚器は一度損傷すると復元が難しく、一生「見えない」、「聞こえない」ということになりかねません。もしものときに備えた予防策として、「ゴーグル」も有効です。
“万が一”を侮らず、適切な予防と応急処置を知ろう
救急救命士の方に話を伺う中で、身近なものを使ってできる目からウロコな応急処置や、うっかりやってしまいそうなNGな対処法などが数多くあった。
ケガや事故はないに越したことはないが、安全第一で仕事をしていても建設業者は自分や仲間の“もしものとき”に備え、適切な応急処置を覚えておきましょう。